子供が安心する歯医者さん

歯医者嫌いが一変!歯に関心を持たせてくれてた小児歯科のお話。

歯医者さんに行くのは好きですか?

たぶん、歯医者さんが大好き!なんて人はほとんどいないんじゃないでしょうか?

目の前に並べられた多くの治療器具、歯を削るキーンという音、薬品の独特のにおい……。

考えるだけでもゾクッとしてしまう人もいるかと思われます。

かくいう私も、幼少期は歯医者さんに行くたびにギャン泣きを繰り返し、歯医者さんにとっては大変厄介な患者のひとりでした。

しかしあれから30年ほど経った現在、なんの恐怖心も抱かず、むしろ楽しみにしながら定期検診に通っています。

私がこんなに平気になったのは、幼少期に出会った歯医者さんのおかげだと思っています。

今回は、私がどんなことをしてもらい歯医者さんが平気になったのかをお話しします。

禁止されると食べたくなっちゃう!

私は幼少期、食育に厳しい母親と、あまり関心のない父親に挟まれて過ごしていました。

普段のご飯はレトルトなどはほとんど使わず、母親が選んだオーガニック食材で作られた幼児食。

おやつは野菜スティックや干し芋、たまにリンゴやバナナを切ってもらって食べていました。

虫歯になるという理由で、砂糖などの入ったものは一切与えられませんでした。

しかし父親のほうはこれと全く逆で、食べられるものなら何でも与えるタイプ。

父親と私2人で外出することがあった際は、ジャンクフードやジュースやアイスを買ってもらっていました。

当然ながら、そういう食べ物はめちゃくちゃ美味しい!

なので、美味しい食べ物を買ってくれる父親との外出は大好きだったし、「ママには内緒!」と言われると、子どもながらに必死に守っていましたが、子どもの内緒なんてすぐにバレるもの。

私にジャンクフードを与えていたことがバレた父親は母親にこっぴどく怒られて、美味しい食べ物が禁止になってしまいました。

しかし、その美味しい食べ物禁止期間を破ったのは、家ではなく保育園でのおやつタイムでした。

パンと一緒に出された甘いヤクルト。

その甘くておいしいヤクルトをずっと堪能しておきたかった私は、ずっと口に含んで飲み込もうとしませんでした。

すると、あっという間に私の乳歯は虫歯になってしまいます。

乳歯は永久歯と比べて柔らかく弱いため、長時間口に含んだヤクルトのせいで歯の表面が虫歯菌の巣窟になってしまったのでした。

怖い歯医者さん

私は母親に連れられて、人生初めての歯医者さんへ行くことになります。

そこで出会った歯医者さんは本当に怖い人でした。

私の歯を見るなりずっと険しい顔をして、私と母親に怒鳴りつけたのです。

「なんで歯磨きしなかったの!?」

「お母さん!小さいうちから甘いものばっかり食べさせたらダメでしょう!!」

「こういう痛い思いをしたくなかったら、甘いものばかり食べずに歯磨きしなさい!!」

まだ2歳かそこらの私には、訳も分からず怒鳴ってきて痛い思いをさせてくるその歯医者さんの存在が鬼のように見えてしまいました。

当然、私は歯医者に行きたくない!と母親に駄々をこねて診察椅子では大暴れ!

歯科助手の人に押さえつけられながら治療を受けていました。

そのせいで余計に暴れてギャン泣きする私。

毎回このようなことになると、歯医者さんにも他の患者さんにも迷惑が掛かります。

神経をすり減らした母親は保育園のママ友に相談すると、そのママ友はある歯医者さんを紹介してくれました。

子供をあやすのがとても上手な先生で、どんな子供も治療を嫌がらなくなるというその歯医者さん。

噂を信じて、母親はその紹介された歯医者さんに私を連れていきました。

ヒーローたちが応援してくれる歯医者さん

そこの歯医者さんは、入り口すぐのところにアンパンマンやしまじろうの絵本やおもちゃがたくさんあり、まるで小さな公園のようでした。

初めての場所で緊張していた私も、気づけば遊びに夢中になっていました。

しばらくすると自分の名前が呼ばれ、母親は待合室で待たされ私だけが部屋に案内されます。

部屋に入った瞬間に漂う独特な薬のにおい、見たことのある大きな動く椅子、目の前にある変な形のライト……。

場所は違えど、痛くて怖い思いをすると察した私はすぐにワンワンと泣きだしました。

急に泣き出した私に顔色一つ変えず、ずっと笑顔で接してくれたのは歯科助手のお姉さん。

「大丈夫だよ!怖くないよー!」

と、なだめながら、私に数枚のカードを見せました。

「どれが好き?」

そのカードには、子どもに人気のあるアンパンマンや戦隊ヒーローなどのキャラクターが一枚一枚載っていました。

たくさんあるカードの中に、私は当時大好きだったセーラームーンを見つけました。

これがいい!と指をさす私。

するとお姉さんは「わかった!呼んでくるね!」と言って部屋を出ていってしまいました。

それからすぐにお姉さんは、手にセーラームーンの指人形と魔法のステッキを持って歯医者さんと一緒に入ってきました。

私は魔法のステッキを渡され、お姉さんが指人形を使って私を励ましてくれるおかげで、恐怖心はいつの間にかどこかへ消え去っていきました。

そしていよいよ治療の時間。

前の歯医者さんでは、いきなりグイグイと口を開けられてよく分からない器具を勝手に突っ込まれていました。

しかしこちらの歯医者さんは一つ一つ器具を見せて、

「これは歯で悪いことしてる怪獣をやっつける武器だよ!」

「ここからお水の魔法が出て、歯を綺麗にしてくれるよ!」

と、虫歯を怪獣に例えて、すべての器具を魔法の武器として説明してくれました。

これからどんなことをされるのかが分かるだけでも、怖い気持ちはなくなります。

治療中のキーンという音でさえ、私の口の中でセーラームーンが怪獣と戦っている音に聞こえるようでした。

治療が終わった後、そこで初めて控え室の母親が診察室に呼ばれました。

綺麗になった歯を歯医者さんと母親に見てもらい、「頑張ったねー!偉かったねー!」と一緒になって褒めてもらったのを覚えています。

最後に歯医者さんから手渡されたのが、セーラームーンのイラストの描かれた歯ブラシとリンゴ味の飴玉でした。

歯医者さんが甘いものをあげていいの?と、母親は疑問に思ったようですが、歯医者さんから返ってきたのはこのような言葉でした。

「甘いものをあげてはいけないんじゃないんです。食べたら磨くというのをしっかり覚えてくれたら、甘いものだって食べても大丈夫!そうしないと、食べる楽しみもなくなっちゃうでしょう?」

もちろん、ジャンクフードなどの食べ過ぎで栄養バランスが崩れるのは絶対にダメですが、たまに息抜き程度なら制限など厳しくしなくてもいいのだそう。

それは、無理に甘いものを禁止した結果虫歯になってしまった私と、初めての子育てで食育の在り方が分からなかった母親の心を軽くした言葉でした。

それから何度もこの歯医者さんには通いましたが、歯磨きをしっかりするという約束で飴玉を一個もらっていました。

そのおかげか、甘いものを食べる→すぐに歯磨きをする という習慣が自然に身につき、いつも綺麗な歯であることを褒めてくれる歯医者さんが嫌いではなくなっていました。

小児歯科の役割

前の歯医者さんは、隣で待っていてくれている母親に話しかけることがほとんどで、私にはほとんど話しもせず、上から見てくる怖い顔だけが印象的でした。

しかし今回の歯医者さんは、必ず私と同じ目線で話し、どれだけ幼くてもメインは私であるという姿勢で接してくれました。

もし最初の歯医者さんに出会った記憶のまま成長していたのなら、私は今もずっと歯医者さん嫌いのまま歯もボロボロになっていたかもしれません。

幼い頃の悪い記憶は、思っている以上に大人になった後の考え方や行動にも影響するものです。

幼い子どもたちが歯磨き嫌い、歯医者さん嫌いにならないよう、歯に興味を持たせてくれる小児歯科は、今後の長い人生の健康を支えるための最も重要な医療機関のひとつなのです。

kitsuneko22著