毎日歯を磨いていても、いつの間にかできていたりする虫歯。
年齢を重ねるにつれて、その本数が多くなっている人もいるのではないでしょうか?
一生付き合っていかなければならない厄介な虫歯ですが、実は現在、若年層を中心に虫歯は減少傾向にあるのです。
例えば今から約30年前の1993年、15~24歳の虫歯(治療済みも含む)の本数は平均9本でしたが、2016年には平均3本まで減少しています。
しかし一方で、65歳以上の虫歯は増加傾向にあるようです。
何故、若年層の虫歯は減少していて、高齢層は増加しているのでしょうか?
虫歯減少の理由

そもそも虫歯とは、虫歯菌(ミュータンス菌)が糖質をエサにして放出する酸によって歯が溶けていってしまう疾患のことです。
若年層の虫歯が減少している理由の一つに、乳児期の感染率の低下があります。
この虫歯菌、生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には存在しません。
虫歯菌は、両親など周りの大人の唾液から感染します。
大人と同じ食器やタオルを使ったり、食事の口移しやスキンシップのキスなどはもちろん、食事をフーフーと冷ます行為でも感染してしまいます。
現在では子育て世代を中心に広く認知されてきた知識ですが、約30年ほど前まではあまり知られていませんでした。
虫歯菌がいなければ虫歯になることもありません。
そして、3歳までに虫歯にならなければ、それ以降の人生も虫歯になりにくくなると言われています。
もちろん完璧に菌の侵入を防ぐことは難しいですが、歯磨きもしっかり行っていれば菌の繁殖は防げます。
また、一般的には歯医者さんへは治療を目的に行くことが多いと思います。
しかし最近では、歯科疾患の予防を目的に歯医者さんへ行く人も増えています。
これは若い人ほどその傾向があり、親子そろって歯医者さんで予防のために通院する人も多いです。
子育てに携わる方たちの知識の高まりと、小さなうちから予防する意識の高まりが虫歯減少の理由の一つと言えそうです。
虫歯減少のもう一つの理由に、学校でのフッ化物洗口の普及があります。
フッ化物(フッ素)とは、自然界に存在するありふれた元素のひとつで、動植物のほとんどすべてに含まれており、もちろん人間の身体にも含まれています。
虫歯で歯が溶けだすと、歯の表面に小さな無数の穴が開いてしまいます。
歯磨きやうがいなどで口内の酸がなくなると、溶けだしたカルシウムなどのミネラルが再び吸着して小さな無数の穴は埋まっていきます(再石灰化)。
しかしこのままでは歯は酸に弱いままで、再び虫歯になってしまいます。
そこでこの再石灰化の際にフッ化物が加わると酸に強い成分に変わり、歯全体がコーティングされることになるのです。
またフッ化物には虫歯菌の働きを抑制する効果もあり、虫歯菌から酸が作られるのを防いでくれるのです。
フッ化物洗口は、食後に1分間ブクブクうがいをするだけ。
それだけで虫歯の予防になり、万が一飲み込んでも体に影響のない濃度なので、安心して実施することができます。
子どものうちから口内環境づくりを習慣化することで、大人になっても虫歯になりにくくなるのです。
高齢層の虫歯増加の理由は?

では、高齢層の虫歯が増加傾向にあるのは何が原因でしょう?
その理由の一つに、加齢による口内環境の変化があります。
長年歯を使っていると、歯の表面のエナメル質がすり減り、虫歯菌の酸に無防備な状態になってしまいます。
また歯ぐきが下がってくると、エナメル質に覆われていない歯根部分が露出することになり、ここも虫歯のできやすい部分となります。
目に見える部分は歯磨きをすれば綺麗に磨けるかと思いますが、歯と歯の間は見えにくく歯ブラシが行き届いているか分かりづらいです。
その上に、加齢によって唾液の分泌も減少してきます。
唾液には口内の酸を中和する働きがあり、これによって虫歯菌の酸から守られている一面もあります。
しかし唾液の分泌が減少すると、口内全体が酸性に傾き、虫歯菌の繁殖に適した環境になってしまいます。
このようなことから、加齢によって虫歯になりやすい環境になってしまうことが分かります。
もう一つの理由に、歯医者さんへ行くことの意識の違いがあります。
最近では予防のために歯医者さんへ通う人も増えてきたと書きましたが、人口全体を見るとその数はまだまだ少ない方です。
「痛くないからまだいいや。」
「黒ずんでないから大丈夫。」
そう思って歯医者さんへ行かないことはありませんか?
私も昔、痛みがないから大丈夫だと歯の異変を放置し、大きな虫歯になっていたことがありました。
その歯は治療済みだったのですが、詰め物の横から虫歯が再発し、内部まで虫歯菌に侵入された状態でした。
高齢層の虫歯は、この治療済みの歯の虫歯の再発が非常に多いようです。
一度治療した箇所だからもう大丈夫!と思って放置してしまい、痛みも感じにくいため、気づいた頃には抜歯する羽目に……。
こうならないためにも、歯を治療した後も定期検診をするよう推奨されています。
虫歯の治療と予防

では一度虫歯を経験したり歳をとったら、もう諦めなければならないのでしょうか?
そんなことは決してありません。
歯医者さんでは様々な虫歯の予防方法が用意されています。
その代表的なものがフッ素塗布です。
歯に直接フッ素を塗って時間を置くことで、虫歯になりにくい強い歯にすることができます。
これを何度も続けることで、その効果は上がっていきます。
1回の効果は約3か月なので、定期検診の際にやってもらうのがおすすめです。
次に、唾液分泌を促すためのマッサージも効果があります。
加齢で唾液分泌が少なくなると、虫歯になりやすくなるほかにも、喋りづらくなったり誤嚥の可能性も高まってしまいます。
その他感染症にもかかりやすくなるため、唾液の減少は健康に重大な問題です。
歯医者さんで教えてもらえるほか、自宅でも簡単にできるマッサージなので継続しやすいです。
唾液分泌を促すために、キシリトール入りのガムを噛むことも効果的です。
キシリトールは砂糖と同じくらいに甘さにもかかわらず、虫歯菌のエサにならず酸を放出させないようにします。
また、虫歯菌の活動自体を弱める働きもあるので、虫歯予防には非常に高い効果を発揮します。
市販で売られているキシリトールガムでもいいですが、歯医者さんによってはより濃度の高いキシリトールガムが売られているところもあるので、一度確認してみるといいかもしれません。
そして一番の虫歯予防はなんといっても、毎日2~3回の歯磨きによるセルフケアでしょう。
いくら歯医者さんでケアをしてもらっても、毎日歯が綺麗な状態を保てていないと意味がありません。
歯医者さんでは歯磨き指導をしてくれるので、自分の歯磨きの癖や自分に合った歯ブラシ選びを教えてくれます。
現在は、市販の歯磨き粉の質も上がり、フッ素が配合されているものが主流になってきました。
自宅で安く簡単にできる虫歯予防として、これほど効果があるものはないでしょう。
自分の歯を守るために

一度虫歯になったとしても、その後のケアをしっかり行えば虫歯が広がることを防げます。
逆に今虫歯がないからといって油断してしまうと、いつの間にか虫歯になっていることさえあるのです。
これはどの世代にも、どんな人にも言えることです。
虫歯ができても初期の段階で発見できるよう、そもそも虫歯ができにくくなるように、歯医者さんでの定期検診は行くように心がけましょう。
kitsuneko22著