世代交代の話し

会社と歯医者の繋がり:歯の健康を第一に考える


歯が痛んで困ったとき皆さんはどうしますか?。多くの場合、我慢して仕事帰りに歯医者に行くのではないでしょうか。どうしても我慢できないときは、仕事を休んで歯医者に行くこともあるかもしれません。私が20代半ばに就職した会社では、この歯医者に関して、少し特別なルールがありました。社員の健康を最優先に考え、特に歯の治療をとても大切にしていたのです。近所に1件だけある歯医者さんはお得意さんで、その会社とは長く付き合いがあったようです。そして、とても優遇されていたのは、歯が痛むときや予約が入っているときは、仕事中でも歯医者に行っていいというルールがあったのです。社員の行き先が書かれたボードに「歯医者」と記されていることもよく見かけたように思います。社員の歯の健康が全ての健康につながるという考え方だったのです。


痛みと戦った記憶

私も歯の詰め物がとれて放置した結果、歯が痛み出したことがありました。例に漏れず、会社から予約を取り、何度か通うことになったのです。「歯の痛みと腫れがひいた後に神経を抜く」ことが決まり、とうとうその日がやってきました。まず最初の方法として提案されたのは、歯に薬を詰めて神経を殺す方法です。麻酔の針を刺されるのが嫌な私は、その方法で了承しました。しかしそれが私にとっては間違いだったのです。薬を詰めた後の痛みがひどく、会社で仕事がまったく手につかなくなりました。どうすることもできず、休憩室で泣きそうになりながら時間が経つのを待っていましたが、一向に痛みが収まらないのです。結局、その日は、もう一度歯医者に行くことになりました。そのときの状態は、歯が痛んでいたときより酷くて、顔が歪みそうなほどの痛みだったのです。

その後、どうやって神経を抜いたのかは忘れてしまいましたが、その日は治療後も痛みが続き、仕事になりませんでした。痛みが数日続いた記憶はないので、鎮痛剤などで乗り切ったのかもしれません。当時のその歯科医院では、麻酔や鎮痛剤の利用が最低限だったように思います。現在は別の歯科医院に通っていますが、歯や神経を抜く際には歯茎に注射針で麻酔をし、麻酔が効いてから抜くのが一般的です。


歯医者さんの世代交代

ある日、治療中に先生の様子がおかしいことに気付きました。手が少し震えており、動きもぎこちないように感じ、治療を受けている私も不安になりました。その日は無事に治療を終えましたが、処置内容によってはかなり不安が残った可能性があります。次の診察のときに不安を感じたら、通う歯科医院を変えようかと思っていました。仕事中に行かせてもらえなくても別にいいのです。しかし、次の診察日にはいつもの先生の姿はありません。かわりに若い歯科医師の姿があり、そばには以前の先生の奥さんが立っていました。「これからは息子がこちらで対応しますので、よろしくお願いします」と挨拶がありました。外で働いていた息子さんが戻ってきて、開業医を継ぐことになったのです。この歯科医院の若返りの瞬間でした。


勤務医か開業医か、選択肢の重要性を考える

この経験を通じて、自分が通う歯科医院の承継という瞬間だけでなく、後ろ盾があることの重要性を感じました。同じように医大で学び、歯医者を目指した場合、後ろ盾があるかどうかで未来がかわるのです。もし、自宅が病院だったら、開業医として継ぐことができます。資産のある家庭なら、開業にかかる費用の負担が少しは減るかもしれません。でも、そうでなければ勤務医として働き続けることになるのです。勤務医が悪いわけではありません。選択肢の違いがあるように感じたのです。この歯科医院の息子さんの場合、勤務医の方が給料が良かったかもしれませんが、家業を継ぐという選択肢があったことで、新しい道が開かれたのです。

その後、私はその会社を離れたため、その歯科医院の様子を詳しく知ることはありません。新しい設備、そして新しい技術と知識が取り入れられていったことが想像できます。古いやり方も良いですが、医学の進化も大切です。息子さんが戻ってきたことで、新たな患者さんも増え、医院はさらに発展していくことでしょう。時々、電車の中から、この歯科医院の看板が見えることがあります。近くにあった会社は既に移転済みで思い出の中にあるだけです。社員の健康を第一に思い、その一番の基本が歯であると考えた社風は、とても素晴らしいことです。その会社と歯医者との連携プレーとも言えるような関係を今ではとても懐かしく思います。ずいぶん前の記憶ですが、あの神経を殺す薬の拷問のような痛みも今では思い出の1つです。そしてまるで世代交代の瞬間に立ち会ったような気分で、良い経験となりました。